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泉美木蘭
2019.11.16 02:24日々の出来事

女と男《5》 アナと雪の女王

『アナと雪の女王』の続編が来週公開されるそうで、
昨夜テレビをつけると、前作が放送されていた。
ちょうど雪山の「ありの~ままで~」のシーンだった。

あの歌は一番の見せ場だけれども、
歌っている女王・エルサ本人にとっては、
「自分の魔法の力を封じなければならない」という恐怖から、
人々に対しても、自分を心配してくれる妹アナに対しても、
そして、自分自身の過去に対してまでも扉を閉ざし、
孤立して生きるということを決めた、
その、ごく一時的な反動による解放の瞬間だ。
歌の伸びやかさと、現実のエルサの境遇との落差がはげしく、
なかなか複雑な気持ちにさせられる場面でもある。

『アナ雪』では、男女の恋愛はあくまでもオマケでしかない。
それよりも社会の中で能力と感情を抑えて、
殻の中に閉じこもって生きるしかなくなった女王を、
どう解放するのかということに主眼が置かれた、
ものすごく現代的な物語になっている。

「白馬の王子様」なんかロクでもない男だという設定だし、
エルサが魔法を使っていたという記憶を消されて、
ただただ朗らかに生きてきたアナのほうは、
そのロクでもない男に簡単に騙される。

アナもまた、エルサのように重要な過去の記憶を封印されており、
エルサの分身のような存在として、淋しさゆえにニセモノの愛に
惑わされる子羊なのである。

エルサの凍りついた心のために、分身のアナもまた心が凍って
死に向かうことになるが、これを救うには、おとぎ話らしく
「真実の愛」が必要だということになる。
だが、そのために必要なのは男性ではない。

愛が必要で、愛を与えてあげなければならないのは、
姉・エルサが過去に置き去りにし、拒絶し、蔑視してきた
「自分自身」なのである。

自分を受け入れられなかったから、周囲の人々を拒絶し、
氷の壁を作ってきた。
その姿を、分身である妹・アナを通して見つけ、抱いたことで、
はじめて自分の「ありのまま」を愛せる心が完成し、
周囲と打ち解けられるようになる。

心の成長をとげ、強く生きていける自分に生まれ変わった、
その瞬間がクライマックスなのだ。

冒険と成長といえば、少年の物語というイメージがあったが、
『アナ雪』は、少女を通して、内面の冒険と成長を描いた。

そこには、子供たちの置かれている孤独や孤立も反映されているし、
社会において能力を封印される女性の姿も反映されている。
続編はどんな物語になるのだろう。

泉美木蘭

昭和52年、三重県生まれ。近畿大学文芸学部卒業後、起業するもたちまち人生袋小路。紆余曲折あって物書きに。小説『会社ごっこ』(太田出版)『オンナ部』(バジリコ)『エム女の手帖』(幻冬舎)『AiLARA「ナジャ」と「アイララ」の半世紀』(Echell-1)等。創作朗読「もくれん座」主宰『ヤマトタケル物語』『あわてんぼ!』『瓶の中の男』等。『小林よしのりライジング』にて社会時評『泉美木蘭のトンデモ見聞録』、幻冬舎Plusにて『オオカミ少女に気をつけろ!~欲望と世論とフェイクニュース』を連載中。東洋経済オンラインでも定期的に記事を執筆している。
TOKYO MX『モーニングCROSS』コメンテーター。
趣味は合気道とサルサ、ラテンDJ。

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